心がほのかに揺れ動く、見えない何かの物語。映画「ブランカとギター弾き」感想

2022

こんにちは。きしめん(@ksmn4747)です。

「物語を書けるようになるべく、インプットを増やそう!」ということで、なるべく物語と呼べる作品に触れるようにしています。

今回は、映画「ブランカとギター弾き」という作品を鑑賞しました。

全く知らなかった作品だったんですが、Amazonビデオで目に留まったので見てみました。

気が付くと、すーっと涙を流しており、それがまた嫌ではないという。そんな物語でした。

せっかくですので、紹介させてください。

予告編映像↓

物語のあらすじ

スリや物乞いをしながら路上暮らしをしている孤児の少女ブランカは、テレビで女優が自分と似た境遇の子供を養子にしたニュースを見たのをきっかけに、「母親をお金で買う」というアイディアを思いつきます。

同じ頃、行動を共にしていた少年達にブランカの住処を壊され、彼女は全てを失ってしまいます。途方に暮れたブランカは、出会ったばかりの流れ者であるギター弾き・盲人ピーターに頼み込み、彼と一緒に旅に出ることに。

たどり着いた街で、ブランカは「3万ペソで母親を買います」と書かれたビラを張りつけます。

一方でピーターは、ブランカがビラを貼っていることを知らずに、彼女に歌でお金を稼ぐ方法を教えます。ピーターが弾くギターの音に合わせて歌い出したブランカの歌声は、街行く人々を惹きつけていきます。

すると、ライブ・レストランのオーナーに誘われ、幸運なことにステージの上で演奏する仕事を得ることになります。十分な食べ物、そして屋根のある部屋での暮らしを手に入れ、ブランカの計画は順調に運ぶように見えました。

しかし、彼女の身には思いもよらぬ危険が迫っていたのでした……。

公式サイト参考)

作品情報

この作品は、長谷井宏紀さんが監督を務め、日本人で初めてベネチア・ビエンナーレ、ベネチア国際映画祭から全額出資を得て制作されたものだそうです。

2015年の第72回ベネチア国際映画祭で、ソッリーゾ・ディベルソ賞、マジックランタン賞をW受賞しています。

ソッリーゾ・ディベルソ賞は、孤立した個人を社会が受け入れることの大切さを描いた映画と監督に贈られる賞。マジックランタン賞は、映画祭の全作品が対象の、若者から贈られる賞だそうです。

※現在(2022年)の公式賞では無くなっています。

主演の2人以外ほとんどの出演者を路上でキャスティングしているというので驚きです。

1時間ちょっとという長さでこれだけ深いお話を体感できるというのも魅力だなと思います。

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ネタバレあり感想

ここからは、ネタバレを含んだ感想を書いていきます。

印象的なシーン

特に印象に残っているシーンは、2つあります。

1つは、ピーターがブランカに触れるシーンです。

酒場で演奏する仕事をもらった二人は、一緒に食事をします。その際、ブランカが「目が見えなくても夢を見るの?」と問うと、ピーターは「触れたものが夢に出てくる」と答えます。

するとブランカがおもむろにピーターの手を取り、自分の顔に触れさせて「これで私も夢に出られるね」と言うのです。このシーンは予告編映像でも見れますね。

その後、いろんなことが起こって、二人が離れ離れになったのち、再会。

「孤児院へ連れてって」というブランカの言葉通り、ピーターは彼女を孤児院まで送り届けます。その道中、電車内で眠るブランカの頭を、ピーターが無言で撫でるシーンがあるのです。

わたしはこの、ピーター自らがブランカに触れるシーンがとても印象的でした。

まるで、ブランカとの別れを惜しんでいるように感じたのです。離れても、夢で逢えるようにと願っていたのかもしれません。

2つめは、孤児院の前で別れるシーン

ブランカはピーターの奨めのとおりに、孤児院へ入ることにしました。

孤児院の門の前、それまで手をつないでいた二人。先に手を放したのはブランカだったように見えました。

小さな手がすり抜けていったあと、残されたピーター。何のセリフも無く、その場に立ち尽くすピーターが何とも寂しげで、とても切ない気持ちになりました。

それまで、ブランカばかりがピーターを頼っていたように見えていましたが、このシーンによってピーターもまたブランカと共にした時間を本当に大切に思っていたことを感じられて、涙が出ました。

心に残ったセリフ

「この子の父親だ」

鶏小屋に閉じ込められたブランカを助け出し、閉じ込めた犯人ラウルに「誰だお前」と問い詰められたとき、ピーターが答えたセリフです。

家族とは何なのか。親子とは何なのか。

このセリフにたどり着く前に、視聴者は「血のつながりだけが全て」とは到底思えなくなっているはずです。

ピーターがブランカの父親であってほしい。わたしはそんなふうに思いました。

それともうひとつ、これは劇中のセリフではないのですが、エンドロールで印象的な言葉が載っていました。

「Home is where someone is waiting for you.(家 それは誰かがあなたを待っていてくれる場所)」

調べたところ、亡きプロデューサーであるカール・バウハウトナー(バウミ)さんが遺した言葉だそうです。

これが、ブランカの最後のセリフである「家に帰る」とつながっていて、この世には、目には見えない大切なものが存在するのだということを強く感じることばだと思いました。

好きなキャラクター

登場人物の中で、個人的に思うMVPは間違いなくセバスチャンです。

彼はラウルを兄のように慕い、あとから出会ったブランカを姉のように思って、血のつながりはなくとも家族になるのだと信じていた少年でした。

物語の主人公はブランカで、彼女の成長や変化を感じるものでしたが、セバスチャンもまた物語の中で変化していました。

ブランカのために町中を走り回ったり、ブランカとピーターを庇ってラウルに反抗したりする姿には、感動せざるを得ません。

彼は、見ている人の心を揺れ動かすヒーローだと感じました。

ラストシーンで、ピーターのそばに彼がいて、めちゃくちゃ嬉しかったです。

面白いと思ったこと

物語を面白くする要素として、伏線とその回収がとても自然で綺麗だなと感じました。

たとえば、物語の最初にブランカが町中に貼り紙をし、中盤では触れられなかったかと思うと、後半になって貼り紙をきっかけに事件が起こる。

たとえば、ブランカが大切にしていた貯金箱。町へたどり着く前から大事に保管していたものなのに、それを持っていたがゆえに罪を疑われてしまう羽目になる。

そういった「仕掛け」がわかりやすく、かつわざとらしくなく溶け込んでいるように感じ、最後にはわだかまりもなくスッキリ回収されるのが気持ち良かったです。

まとめ

前知識を全く知らない状態で視聴し、1時間ちょっとという短めながら、すーっと静かに涙が出てくるような作品でした。

公式サイトの応援コメントのところで、「まさに!」と思うコメントを見つけました。

目に見えるもの、お金で買えるもの。
それ以上のものが、確かにある。
生きることを愛したくなる映画。
.            俵万智(歌人)

本当にこれです。

目に見えるものだけが、お金で買えるものだけが、すべてではない。そう感じさせるチカラが、この作品にはあるなと感じました。

あなたも、心の奥を小さく揺さぶられるような、あたたかい物語に触れてみませんか?

 

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